無事退院!

 いよいよ退院の日、妻が車で迎えに来てくれて倒れてから初めて家に帰ることになりました。まず、車に乗るのが初めてで乗り込むのは大丈夫だったのですが、病院から家まで車で40分程の距離で、車に乗って横の景色を見ようとすると景色の流れが速すぎて、車酔いのような感じになり、横になって目を閉じていないと耐えられませんでした。 
 何とか家に到着し、マンションの5階だったので、片松葉杖をついて階段は使わずエレベーターで移動して部屋に入りました。久しぶりの家は懐かしい感じがしましたが、退院に合わせて、食事や休憩がしやすいようにテーブルと椅子を設置してあり今までの家とは違い、自分も変わってしまったのだと改めて思いました。
 これまではずっと病院だったので外の世界にふれることはなく、早く外に出ていろいろな所に行きたいと思っていたのですが、退院して実際に外の世界にふれると自分が取り残されているような焦りや不安を感じることが多く、退院して嬉しい反面、現実を突きつけられてすごく不安を覚えました。
 そして、これからは家での生活と自分自身でのリハビリをしていかなければならず、自由に好きなことができる嬉しさと、これからの生活の不安でとても複雑な心境でした。

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退院に向けて

 片松葉杖での歩行にも慣れ、リハビリ室などある程度距離のある場所への移動も楽になり、生活自体にも随分余裕が出てきました。熱が下がってからの入院生活は、点滴や検査など医療的な治療はなくリハビリが一日の主な目的となっていました。リハビリがない時間は、ゲームをしたりテレビや雑誌をみて過ごしました。目を使うことは長時間になると疲れるのですが意外と早い時期から苦にならなくなりました。また、身内や友達、職場の方が代わる代わるお見舞いに来ていろいろ励ましてくれて大変ありがたかったです。
 入院して1ヶ月になる頃、急性期の病院ということもあり、長期間の入院はできない為退院に向けていろいろ考えることになりました。
 退院後の選択肢としては、まだまだ仕事復帰できる状態ではないので、リハビリ目的で回復期の病院に転院する事もあったと思いますが、自分としては自らが理学療法士というリハビリの仕事をしている為、ある程度動けるようになったので家に帰り、自分でリハビリをして仕事復帰できるようにしていこうと考えました。
 そして、今回脳出血の原因となった動静脈奇形の血管をγ(ガンマ)−ナイフという機械でつぶす手術を2ヶ月後に行うことにして、1ヶ月余りの入院を終えて退院することになりました。退院するまでにリハビリではマンションの階段を使えるように階段昇降の練習をしたり、リハビリ室から出て屋外を少し歩き回る歩行練習をしました。

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手の機能障害

 症状は、右の腕と脚に強く出現し、脚の方は移動する時以外はさほど気にならないのですが、腕の方は、特に利き腕だったこともありご飯を食べる時や、歯を磨く時、字を書く時などいろいろな場面で使わなければならず苦労しました。
 腕の症状としては、脚も同じなのですが、まず、力の強弱がうまくできないことがありました。これは、目標とする所に手を伸ばそうとするとかなりずれてしまいそれを修正しようとすると行き過ぎてしまうという過程を何回か繰り返してようやく目標とする所に手を持っていくことができるというようなことです。
 次に、すばやく手の動きを切り返してそれを繰り返すような動作ができませんでした。手をすばやく繰り返すような動作をしようとしても手が固まって動かないような状態で、例えば歯磨きでブラシを小刻みに往復させる事はすごく難しくて、動かそうとすると大きく動きすぎて口からずれて顔にブラシがついてしまったり、往復して動かすにはゆっくりでないとできず、何回が動かすと腕がすごくだるくなってそれ以上動かせないような状態でした。
 また、字を書く時などは、手が細かく動かせないために、特に小さい字はミミズが這ったような字しか書けませんでした。ご飯を食べる時は、箸を持つことはできるのですが、細かい力の強弱ができず、口にもって行くまでにこぼしてしまうことがよくありました。
 以上のように日常生活で必要な動作に右腕がうまく使えないことはかなりのストレスで、すぐに反対の手を使おうとしてしまい、反対の手は利き腕ではないので初めはうまくできないのですが、右腕がうまく使えなくなると、自然に左腕が器用に動くようになりなんでもできるようになりました。
 しかし、これらの動作は、右腕のさまざまな機能を必要とし、逆に言えばリハビリとして最適で、動作が少しずつできるようになると右腕の機能も少しずつよくなっていったので、できるだけ右腕で何でもするようにして、うまくできなかったり、時間がかかるなどのストレスもありましたが、意識して使うようにすることで、少しずつ右腕が使えるようになりました。
 これには、食事や歯磨きは規則的に毎日することなので必ず毎日決まって訓練できること、普段から慣れている動作で無意識に覚えているため意識しなくてもその動作能力を引き出せること、日常生活で必要な動作のためやらなければいけないと思うまでもなく、必要に迫られやり遂げようとすることなどがよい方向に働いて右腕の機能回復につながったのではないかと思います。
 よって、腕の機能回復には、日常生活動作を意識的にすることがよいリハビリになるのではないかと思います。

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歩行器から片松葉杖へ

歩行器でトイレやリハビリに自由に行けるようになると、次のステップとして、片松葉杖での歩行訓練が始まりました。歩行器は安定性があり、多少バランスが悪くても、歩行器をしっかり把持していれば倒れることなく歩くことができますが、退院して家での生活を考えると、歩行器は家の中で動き回るには大きく、不自由であり現実的ではありません。ですから、歩行器以外の移動手段として片松葉杖での歩行を獲得することは退院に向けて大きな一歩となります。
 痛みや筋力低下により、片脚で体重を支えることができなければ両松葉杖での歩行が良いのですが、私の場合、バランスが悪く、ちょっとした事でふらついてしまうのと、右脚をスムーズに出す事ができないのが主な症状で、痛みもなく右脚も動きは悪いのですが体を支えるだけの筋力はあったので、片松葉杖での歩行訓練を行いました。
 歩行器と比べると、かなり不安定で、初めの頃は恐怖心がありましたが、左脚の機能がほぼ正常に戻った事で、歩行動作はすぐにできるようになり、ふらついたら杖で踏ん張るようにして何とか歩けるようになりました。片松葉でトイレやリハビリに自由に行けるようになるまでには思ったより時間を要しませんでした。片松葉杖での歩行訓練を開始してから、3日ほどで病棟内を自由に歩けるようになったと思います。
 しかし、歩行動作自体は、ぎこちなく、上半身と下半身をつなぐ骨盤周囲の筋力が極端に落ちてしまい、特に腹筋の筋力が落ちたことで、体を支えるために腹筋の代わりに胸部の背筋や肩甲骨周囲の筋肉、首の筋肉が過剰に働き、上半身をガチガチに固めて歩くため、ロボットのような動きになっていました。また、頭を動かすとめまいが起こるため、上下左右を見るときには目で追うことしかできず、頭は真直ぐを向いたまま動かすことができなかったので、首や肩の筋肉には常に力が入ったままで、視界も狭かったです。そして、姿勢は、後方と側方のバランスが悪かったのでバランスを取るために、足を広げ、前傾姿勢となって歩いていました。

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トイレ動作

 歩行器に慣れるとトイレやリハビリ室までの移動が随分楽になり、それ以外でも少し散歩をしたり売店に買い物に行ったりと、ずっとベッド上で過ごしていた生活からいろいろ動き回るようになりました。しかし、2週間ほど寝たきりだっただけで自分でもびっくりするくらい体力が落ちていて、最初は、座って少し話をするだけで疲れてしまい、横になるような状態で、少しずつ動くようになって、体力も少しずつ回復していったような気がします。
 トイレに関しては、車椅子で行っていた頃は、本当にトイレに行くことがきつくて、まず、便座に移るのにバランスがとれず、両手でしっかり支持してゆっくり移らなければなりませんでした。そして、一番きつかったのがお尻を拭くことで、利き手である右手は思うように動かないので、ゆっくりとトイレットペーパーをお尻にもって行き、ぎこちない動作で拭くのですが、この時片手を離して座っているのがうまくバランスがとれずにきつくて、その状態で思うように動かない右手で拭くのはかなり重労働で、時間もかかるし、体勢もきつくてかなり苦痛でした。
 仕事でも、入院されている方はトイレに早く自分で行きたいとよく言われます。自分の経験上その気持ちはすごくわかるのですが、トイレに自分で行くためには、まず自分でトイレに行く移動手段が自立しなければなりません。仮にトイレに連れて行ってもらえても、トイレの中では便座に移る・ズボンの上げ下げ・お尻を拭くなど筋力やバランスを必要とする動作が多いです。ですから、トイレ動作が自立するためにはかなりの動作能力が必要で、すぐに自分で行きたいという気持ちとは裏腹に、実現するには時間とかなりの訓練が必要です。逆に言うと、トイレ動作が自立すると、人間の生理現象ですので、毎日何回か必ず行きますし、トイレに行くまでの移動も必要なのでトイレに行くこと自体が、リハビリとして効果的で、ベッド上の生活から離れるのに非常に有効であるといえます。

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